離婚件数の8割以上は協議離婚となっており、FPのところへは「財産分与」に関する質問をきっかけにご相談にこられる方が多いです。きっかけは「財産分与」ですが、合わせて協議離婚の流れや取り決め項目などの概要をお伝えすることになります。離婚の取り決め事項は文書化することが一般的ですが、今回は「公正証書」と「離婚協議書」について解説します。
離婚の方法
離婚の合意ができないと、① → ③へと手続が移っていきます。
日本公証人連合会 「離婚」より
- 「協議離婚」当事者の協議による合意の上、離婚届を市町村長に届け出る
- 「調停離婚」家庭裁判所の調停手続により調停を成立させる
- 「裁判離婚」離婚しようとする者が離婚の訴えを家庭裁判所に提起し確定判決を得る
離婚するための条件を文書化する
家庭裁判所で行われる「調停離婚」では、夫婦で取り決めた内容を公文書にて作成されます。
協議離婚では、夫婦で取り決めた内容が自動的に公文書とならないため、文書化する必要があります。
協議離婚で作成される契約書は2種類あります。
- 通常の契約書
- 離婚協議書、合意書、離婚に伴う契約書、協議離婚合意書、離婚給付契約書などの名称で言われる。
- 公正証書
公正証書 | 離婚協議書や合意書 | |
---|---|---|
お金の支払の 不履行の場合 | 強制執行が可能 | 裁判を起こす必要あり |
作成場所 | 公証人役場 | 夫婦の話合いによれば自由。 弁護士、司法書士、行政書士など の専門家に文書化の依頼することも可能。 |
費用 | 政府が定めた「公証人手数料令」という政令による | 専門家ごと個別の料金(報酬) |
離婚協議書を公正証書で作成した場合、お金の支払い契約が守られなかったときに、強制執行(財産の差し押さえ)が可能になります。
強制執行とは
支払う義務のある人の財産を差し押さえて、強制的に支払いをしてもらうことです。
強制執行の対象にできるのは「決まった額のお金を支払う契約」だけです。
住宅、自動車などを引渡す契約は強制執行の対象になりません。
強制執行を念頭において公正証書を作成する場合は、支払金額、支払期日などを明確にしておかなければなりません。「月給の〇%を毎月支払う」という契約は強制執行の対象になりません。
公正証書費用
公証役場で公正証書を作成する場合、政令による「公証人手数料令」で定める公証人手数料がかかります。
離婚の公正証書の作成では、養育費、財産分与、慰謝料などの契約する金額によって公証人手数料が計算されます。
離婚公正証書の場合:
①「財産分与と慰謝料の合算」で手数料を算出
②「養育費」で手数料を算出
例:養育費月額3万円を15年払う場合は最大10年分までを限度として計算
3万円×12カ月×10年=360万円が目的の価額となる
①+②が手数料の合計額
このほかに公正証書の用紙代(約5千円程度)がかかります。
離婚公正証書の費用負担は、夫婦の話し合いで決めます。
離婚協議書
公証人が作成しない離婚協議書も、通常の契約書として法的効力を備えます。
ただし、離婚協議書は公正証書と違い、お金の支払い契約が守られなかったときに、債権者は裁判を経なければ「強制執行」を行うことができません。
強制執行が容易でない債務者(例えば自営業者など)や、お金の支払いの遅延の心配が低い高所得者の場合、すぐに離婚の届け出をしたい時などは公正証書でなく離婚協議書で済ませるケースもあります。
離婚届提出後に公正証書を作成することを事前に離婚協議書で合意しておき、離婚後に公正証書を作成することもできます。
私署証書の認証
公証人が作成しない離婚協議書も通常の契約書として法的効力を備えますが、後になって「書いた覚えがない」と言われた場合には本人の意思で作成したことを証明することができません。
公証人役場にて私署証書の認証(署名、署名押印又は記名押印の真正を、公証人が証明すること)を行うことで、その文書が真正に成立したこと、すなわち文書が作成名義人の意思に基づいて作成されたことが推定されます。
離婚協議書にて住宅ローンや年金分割の取り決めを行う場合、通常は私署証書の認証が必要とされます。
住宅ローン契約の変更
婚姻中に取得したマイホームの住宅ローンについて、離婚によって契約時の条件と変わってきてしまう場合があります。
- 債務者である夫がマイホームに住まなくなる
- 債務者である夫でなく妻がローン返済することになる
- 配偶者の親(担保提供者)の土地にマイホームを建てたが、離婚することによって親族ではなくなってしまう
- 配偶者や配偶者の親と共有名義のマイホームが、離婚によって他人と共有になってしまう
夫婦や夫婦の親との間で、住宅ローン契約時と条件が変わる取り決めをしても、金融機関の承諾を得られなければ全額一括返済を求められることもあります。
債務者が返済を怠った場合は、連帯保証人、連帯債務者が返済義務を負うことになり、金融機関に知らせないでやり過ごすことは難しいでしょう。
また離婚の協議をしている最中に、自分名義(または共有)であるマイホーム(または持分)を売却して換金しようとする人もいますので、マイホームに関する変更手続きは先送りすることなく進める必要があります。
一般的には、住宅ローンの契約変更や借り換えが考えられます。
債務者を夫から妻に変更したい場合に妻の年収が少なく審査に通らなかったり、マイホームを売却しても残債が残ってしまったり、といったケースも多々あり金融機関の承諾が簡単に得られないケースがほとんどです。
金融機関の審査のため、夫婦での取り決めを文書化したものを提出することを求められます。
公正証書で作成すると期間を要することになり、内容を変更することになった場合に煩雑になってしまうことから「離婚協議書」を作成して対応することになります。
金融機関の承諾が得られる見込みが整った最終段階では、私文書である「離婚協議書」を公証人役場にて認証を受けることを求められるようです。
年金分割
協議離婚において年金の合意分割をする場合、下記のどれか一つが必要です。
- 公正証書の謄本または抄録謄本
- 公証人の認証を受けた私署証書
- 年金分割することおよび按分割合について合意している旨を記入し署名した書類(「年金分割の合意書」)
②離婚協議書を作成する場合、年金分割については別に合意書を作成して、公証役場で私文書の認証を受けます。
③日本年金機構HPに合意書のフォーマットがあります。
①~③離婚後に二人で年金事務所へ出向いて手続きすることが必要になりますが、それぞれ代理人を立てるこをが可能です。
FP相談の現場から
公正証書にするのか離婚協議書(合意書)にするのかは、ケースバイケースです。
手数料を安く済ますために、契約金額を下げたり公正証書や認証を省いたりして、後々トラブルになるようでは本末転倒になってしまいます。
どういった場合にどのような形で契約書を作成することがベストなのか、後悔しないためにも専門家のアドバイスを得て作成することをおすすめします。