すみからすみまで知りたい「退職金制度」

*本ページはプロモーションが含まれています

人手不足に悩まされる中、「求人の応募者数を増やすため」「従業員の定着率」をはかるため、福利厚生に力を入れる事業者が増えています。特に退職金制度の充実を検討されている事業主様も多いと思います。
今回は中小企業の退職金制度の状況についてご紹介します。
(令和7年1月14日更新)

目次

退職制度の全体像

退職金制度は、企業独自の退職金・退職金共済・企業年金の3つに大きく分けられます。

企業独自の退職金

  • 企業の現預金を原資にした一時金支払
  • 法人保険を原資にした支払(逓増定期保険、長期平準定期保険、福利厚生プランの養老保険など)

退職金共済

自社で退職金制度を準備することが難しい中小企業向けに、国や地方自治体などが運営し、制度をバックアップしている退職金制度です。

  • 中小企業退職金共済
  • 小規模企業共済
  • 社会福祉施設職員等退職手当共済(WAM)
  • 特定退職金共済
  • 特定業種退職金共済(建設業退職金共済/清酒製造業退職金共済/林業退職金共済)など

企業年金

法律(確定給付企業年金法および確定拠出年金法)に基づいて実施される退職年金制度です。

  • 確定給付企業年金(企業型DB)
  • 確定拠出年金(企業型DC、iDeCoプラス)
  • 厚生年金基金(現在は新設不可)
【参考】企業年金再編(クリックすると開きます)

平成13年に「確定給付企業年金法」「確定拠出年金法」が制定され、企業年金が再編されました。

年金制度の全体像

公的年金の上乗せとして企業年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。

2024年12月より、企業年金に上乗せできる個人型確定拠出年金(iDeCo)の拠出額が拡大されました。

【参考】2024年12月改正 企業年金に上乗せできるiDeCo拠出額の注釈(クリックすると開きます)

マッチング拠出を導入している企業の企業型DC加入者は、企業型DCの事業主掛金を超えず、かつ、事業主掛金額との合計額が拠出限度額(月額上限額※からDB等の他制度掛金相当額を控除した額)の範囲内で、マッチング拠出が可能。
マッチング拠出かiDeCo加入かを加入者ごとに選択することが可能。

企業年金(企業型DC、DB等の他制度)の加入者は、事業主の拠出額(各月の企業型DCの事業主掛金額とDB等の他制度掛金相当額)との合計が月額上限額※の範囲内で、iDeCoの拠出が可能。
公務員についても同様に、月額2.0万円かつ共済掛金相当額との合計が月額上限額※の範囲内でイデコの拠出が可能。

※月額上限額62,000円(令和7年税制改正)

企業年金の実施状況

2023年の調査では、従業員規模が小さいほど退職年金制度の実施割合は低く、退職一時金制度の割合が高くなっています。
また、従業員規模が100人未満の企業の約3割は「退職給制度がない」という回答結果です。

【参考】上図の注釈(クリックすると開きます)
  • 退職一時金制度‥社内準備、中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度、その他
  • 退職年金制度‥確定給付企業年金(企業型DB)、確定拠出年金企業型(企業型DC)、厚生年金基金、適格退職年金、企業独自の年金

企業型確定拠出年金(企業型DC)の導入に際し、障害や実施中の問題となっている原因についてのアンケートでは、「財政負担」に次いで、「投資教育の負担」「手続き上の負担」が多くを占めています。

厚生年金適用事業所の状況

規模別の厚生年金保険適用事業所数と被保険者数の割合を見てみます。
従業員数300人未満の事業所が全体の99.4%を占め、被保険者数は55.4%を占めています。
冒頭の企業年金の実施状況にもデータが出ていましたが、従業員300人万事業所の退職年金制度をカバーすることが、全体の底上げにつながるといえます。

2022年9月1日時点の規模別の厚生年金適用事業所・被保険者数
厚生労働省「DC制度の環境整備2024.7.31」P9
事業所数
(%)
被保険者数
(%)
  ~99人2,588,034か所
(98.0%)
16,623,617人
(40.3%)
100~299人37,648か所
(1.4%)
6,227,068人
(15.1%)
300~499人7,296か所
(0.3%)
2,781,251人
(6.7%)
500~999人5,038か所
(0.2%)
3,490,516人
(8.5%)
1000人以上3,807か所
(0.1%)
12,091,916人
(29.3%)
総数2,641,823か所
(100%)
16,623,617人
(100%)

従業員300人未満の退職年金制度

2018年5月に中小企業向けに2つの退職金制度が創設されました。
2022年10月からは対象となる従業員の範囲が100人以下から300人以下に拡充されました。

  • 簡易型DC(簡易型企業型年金)
  • iDeCoプラス(中小事業主掛金納付制度)

簡易型DC

企業型DCの設立条件や必要な手続きを簡素化し、少ない事務負担で導入することができる企業年金制度です。

iDeCoプラス

企業年金を実施していない中小企業が、iDeCoに加入している従業員の加入者掛金に追加して、事業主が掛金を拠出することができます。

簡易型DCとiDeCoプラスの取組状況

簡易型DC

2018年5月施行以来いまだ導入実績はありません。
効果がないのなら制度を廃止してはどうか、といった意見もあります。

  • 従業員全員を対象にしなければならないという条件があり、簡易である一方、加入要件に関する規制となってしまったのではないか。
  • 見込んだ効果がないならば制度を廃止してはどうか。
社会保障審議会企業年金・個人年金部会によける議論の中間整理(抄)(2024年3月28日)


iDeCoプラス

iDeCoプラスの実施事業所は右肩上がりに増加しており、2024年3月末時点のiDeCoプラス加入事業所は約7,400事業所(約47,000人)となっています(厚生労働省「DC制度の環境整備2024.7.31」P9より

iDeCoプラス実施事業所1箇所当たりの加入者は平均6人程度です。
実施事業所のおよそ6割が加入者4人以下となっています(2023年5月現在)

2022年9月1日時点のiDeCoプラス実施事業所数

厚生労働省「DC制度の環境整備2024.7.31」

iDeCoプラスの実施事業所は右肩上がりに増加しているとはいえ、ニーズの掘り起こしがされていなかったり、他の制度が先んじて導入されていたり、そもそも運営機関の手数料収入が小さいため積極的な導入促進が行われていないようです。

iDeCoプラスは、運営管理機関の手数料収入が企業型DCと比べて小さく、運営管理機関によるiDeCoプラスの積極的な導入促進が行われにくいため、普及のためには中立的な立場で相談できる場を容易することが重要

社会保障審議会企業年金・個人年金部会によける議論の中間整理(抄)(2024年3月28日)

iDeCoプラスを導入しなかった事業所の主な理由として「従業員のニーズなし」「福祉厚生制度導入意向なし」「他企業年期制度を導入済み」があげられた。

第25回社会保障審議会企業年金・個人年金部会 ヒアリング等における主な意見(抄)

その他の退職給付制度の取組状況

退職金制度の中で、60年以上の歴史を持つ中小企業退職金共済(中退共)が実施事業所・加入者数ともに圧倒的多数を占めています。

実施事業所加入者数集計時点
中小企業退職金共済(中退共)55.5万事業所575.5万人令和2年度末
iDeCoプラス0.74万事業所4.7万人令和6年度末
総合型DB3.1万事業所164万人令和4年度末
総合型DC2.7万事業所89万人令和4年度末※推測値
厚生労働省「DC制度の環境整備2024.7.31」P9をもとに筆者が作成

DB(確定給付年金)は給付される年金が確定している年金制度、DC(確定拠出年金)は拠出される年金が確定している年金制度です。

DBは運営コストが高く、また、制度を健全に維持するための基準を満たすためには一定規模以上の企業でなければ導入が難しくなっていました。
しかし、複数の企業が集まり運営をする「総合型DB」の普及により、中小企業も加入できるようになってきました。「総合型DB」は地域、業種を問わずに加入できる基金型のDBです。

最近では「総合型DC」の利用も増加していると推計されています。

総合型DC

企業型DCは、制度上「総合型DC」は設けられていませんが、二以上の事業主が一の企業型年金を実施している場合、代表事業主が規約の承認・変更申請等を行うところ、代表事業主が「総合型DC」と称して加入事業主を広く募っているケースがみられます。このうち、代表事業所が運営管理機関の関連会社であるケースもみられます。

総合型DB

二以上の厚生年金適用事業所の事業主が共同で実施する確定給付企業年金には、「規約型」と「基金型」があり、基金型の中でも、地域・業種を問わずに加入できる「総合型」というタイプが最近増えています。

確定給付企業年金は運営コストが高く、また、制度を健全に維持するための基準を満たすためには一定規模以上の企業でなければ導入が難しくなっていました。しかし、複数の企業が集まり運営をする「総合型」の普及により、中小企業も加入できるようになってきました。

【参考】企業型DB 規約型 (クリックすると開きます)

確定給付企業年金の規約型は、会社と社員との間のルールを決めた退職金規程や規約に基づき、会社が保険会社や信託銀行等と契約を結び制度を運営します。
契約した保険会社や信託銀行等は、会社に代わって、給付に必要な保険料(掛金)を預かり、預かった資金を運用し、給付するしくみになっています。給付に必要なお金の準備ができているかを、毎年確認するしくみも設けられています。

【参考】企業型DB 基金型 (クリックすると開きます)

確定給付企業年金の基金型は、「企業年金基金」という法人をつくり、制度を運営します。
この制度は厚生年金基金と似ていますが「代行部分」がないのが大きな違いです。

基金型は、企業年金基金が中心となって決めたルールに基づいて運営します
参加する会社はその基金に運営を任せ、掛金を支払い、給付を依頼します。


企業型DBの基金型は、単独設立、連合設立、総合設立の3つの形態があります。
最近増えているのは「総合設立型(総合型)」です。

選択制DB・DC

既存の給与を原資として、その一部を切り出す形で本人の選択により企業年金として積み立てる選択制DB・DCが増えています。

例えば「前払い退職金」という項目の給与を、本人の選択によりこれまでどおり毎月の給与として受け取るか、一部または全部を給与では受け取らずにDB・DCの掛金として積み立てることもできるという仕組みです。

給与を減額して掛金とするケース

既存の給与を減額して原資とする場合は、制度導入前にあらかじめ給与規定の見直しをしています。

事業主掛金部分は社会保険料の対象とならないため、給料でもらった場合に比べて社会保険料が下がります。
社会保険料負担は少なくなりますが、将来もらえる公的年金や失業保険、育休手当等も減ってしまいます。

選択型DB・DCについては、メリットのみが強調され、従業員にとって労働条件の不利益変更になる部分が理解されていないといった意見があります。

年金基金が運営主体となり不特定多数の企業が共同で運営するので、単独で退職金制度を持つことが難しい中小企業にとって事務的な負担を小さくして利用できるのが「総合型」のメリットです。
しかし、共同運営のため企業ごとのカスタマイズの余地は限られ、自社の都合だけで運営方針を変えたりすることができないのがデメリットです。

総合型DBは、退職金の支払いのための資金負担を平準化できる一方で、積立不足が発生すると追加負担が必要になります。

退職金制度に関する考察

従業員規模の大きな企業は、以前より企業年金制度が充実していました。
人手不足に悩まされる中、従業員数の少ない(300人以下)企業でも「求人の応募者数を増やすため」「従業員の定着率」をはかるため、福利厚生として退職金制度の充実の機運が高まっています。
中小企業様からの退職金制度に関するご相談も多く承っていますが、一度導入してしまうと変更したり脱退したりといったことが大変になってしまいます。

また、そもそも就業規則に退職金制度を設けていなければ退職金を支給する義務もなく、逆にどのような方法で退職金額を決めるのかも会社の自由です。
退職金制度を導入するに際して退職金規定等を作成すると、その通りに退職金を支払わなくてはなりません。

貢献度によって退職金の額を人によって変えたり、その時の会社の資金状況により退職金の金額を決めたい、とお考えの方もいらっしゃると思います。
事業主の裁量で退職金の金額を決めたり、払う・払わないを決めたい場合は、退職金制度の導入はそぐわないかもしれません。

事業主が退職金のコントロールをしたいかどうか(特に懲戒解雇の場合)が、退職金制度導入を考える大前提となります。

退職金制度導入を検討する際は、いろいろな角度からの見方、複数の選択肢からの比較をしていただき、自社にあった退職金制度を選んでいただきたいと思います。

この記事を書いた人

FPあちこのアバター FPあちこ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士

金融商品を販売しない独立系ファイナンシャルプランナー
中立な立場から情報提供をしています
セミナー講師・お金のセカンドオピニオン相談が専門

目次