中小企業の退職金制度のひとつである中小企業退職金制度(略称「中退共」)について解説します。
最近では、企業年金(DC・DB)やiDeCoプラスなどの退職金制度を積極的に取り入れる中小企業が増えてきました。その中で中退共は60年以上の歴史を持つ退職金制度です。他の制度との関わりも含めてご紹介します。
(令和7年1月14日更新)
中退共とは?
中退共制度は、昭和34年に中小企業退職金共済法に基づき設けられた中小企業のための国の退職金制度で、独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(中退共)が運営しています。
中小企業単独で退職金制度を持つことが困難な事実上を考慮して作られました。
中小企業者事業者からの掛金を運用し、長期加入者の退職金が手厚くなるように設計されています。
加入条件
加入できる企業
業種ごとに従業員数か資本金(出資の総額)によって基準を満たす必要があります。
業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 | |
---|---|---|---|
一般業種(製造業、建設業等) | 300人以下 | または | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | または | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | または | 5千万円以下 |
小売業 | 50人以下 | または | 5千万円以下 |
常用従業員とは
一週間の所定労働時間が同じ企業に雇用される通常の従業員とおおむね同等である「雇用期間の定めのない者」または「雇用期間が2か月を超えて使用される者」
加入対象者
従業員は原則加入
- 期間を定めて雇用される従業員
- 季節的業務の雇用される従業員
- 試用期間中の従業員
- 短時間労働者
- 休職期間中の者およびこれに準ずる従業員
- 定年などで相当の期間内に雇用関係の終了することが明らかな従業員
加入できない人
- 事業主および小規模企業共済加入者
- 法人の役員(使用人兼役員として賃金の支払いを受けている人は加入できる)
- 被共済者になることに反対の意思を表明した従業員
- 中退共制度に加入している方
- 特定業種退職金共済制度に加入している方(建設業・清酒製造業・林業退職金制度)
家族従業員
従業員である実態があれば家族であっても加入できます。
ただし、事業主と生計を一にする同居の親族を加入させる際は、使用従属関係等の確認のための書類の提出を求められます。
短時間労働者として加入できる人
1週間の所定労働時間が同じ事業所に雇用される通常の労働者と比べて短く、かつ30時間未満である人。
すでに加入しているパート従業員が途中で一般の従業員になった場合の手続きは特に必要としませんが、通常の労働者と同様の掛金(5,000円以上)への増額が必要です。
他制度との併用
企業として中退共と併用することは可能ですが、同一の従業員が両制度に同時加入することはできません。
- 社内準備による退職金制度(現金支給分)
- 確定給付企業年金制度
- 確定拠出年金制度
- 特定退職金共済制度
- 存続厚生年金基金
- 特定業種退職金制度
- 小規模企業共済制度
- 社会福祉施設職員等退職手当共済制度
掛金
掛金は全額損金計上
掛金は全額損金計上することができます。
毎月の掛金は全額事業主負担とし、金融機関を通じて納付します。
掛金は、一部でも従業員に負担させることもできませんし、給与や賞与から天引きすることもできません。
掛金の種類
事業主は、以下の16種類から従業員ごとに選択できます。
5,000円 | 6,000円 | 7,000円 | 8,000円 |
9,000円 | 10,000円 | 12,000円 | 14,000円 |
16,000円 | 18,000円 | 20,000円 | 22,000円 |
24,000円 | 26,000円 | 28,000円 | 30,000円 |
短時間労働者(パート等)は、上記掛金のほか特例として下記の掛金月額でも加入できます。
2,000円 | 3,000円 | 4,000円 |
国からの助成がある
- 新規加入助成
-
初めて中退共に加入する事業主に対して、加入後4カ月目から1年間、国からの助成金があります。
掛金月額の1/2(従業員ごとに上限5,000円)
短時間労働者の特例掛金月額は、掛金月額の1/2にさらに上乗せがあります。正社員短時間労働者(パート) - 月額変更助成
-
初めて中退共に加入する事業主に対して、加入後4カ月目から1年間、国からの助成金があります。
18,000円以下の掛金月額を増額する場合は、増額分(変更前と変更後の差額)の1/3
20,000円以上の掛金月額からの増額は対象外。月額変更助成期間中に再度増額する場合月額変更助成期間中に再度増額変更する場合は、前の「月額変更助成」は中止され「新しい月額変更助成」が対象となる
いったん減額してから増額する場合いったん減額してから増額する場合は、過去の最高掛金との差額からの増額分の1/3を助成
月額掛金の決め方
- 定額方式
-
定年や勤続年数を基準に目安を決め、掛金月額を逆算する方法
- 賃金を基準にした方法
-
賃金をいくつかのグループに分け、掛金月額を決める方法
- 勤続年数を基準にした方法
-
勤続年数をいくつかのグループに分け、掛金月額を決める方法
退職金
退職した従業員の請求に基づき、中退共本部から退職金が退職した従業員へ直接支払われます。
退職金の額
退職金は、基本退職金と付加退職金の2本建てで、両方を合計したものが、受け取る退職金になります。
退職金 = 基本退職金 + 付加退職金
基本退職金
掛金月額と納付月数で決まっており、制度全体として予定運用利回りを1.0%として定められた額です。
予定運用利回りは、法令の改正により変わることがあります。
11カ月以下の場合は支給されません。
(通算制度または、他制度からの引継ぎを行っている場合は、11月以下でも支給される場合があります。)
12カ月以上23カ月以下の場合は掛金納付総額を下回る額になります。
24カ月以上42カ月以下では掛金相当額です。
43月カ月からは運用利息と付加退職金が加算され、長期加入者ほど有利になります。
付加退職金
基本退職金に上積みするもので、運用収入の状況等に応じて定められる金額です。
掛金納付月数の43カ月目とその後12カ月ごとの基本退職金相当額に、厚生労働大臣が定めるその年の支給率を乗じて得た額を、退職時まで累計した総額です。
退職金の支払い方法
一時金受取りと分割受取・一時金と分割の併用受取りが可能です。
一時金受取
退職金の全額を退職時に受取る方法です。
「退職所得控除」の対象になります。
全額分割受取
退職した日において60歳以上であること。
「公的年金等控除」の対象になります。
- 5年分割
-
退職金の額が80万円以上
退職金の総額 = 退職金額 ×(1000分の51+厚生労働大臣の定める率)
- 10年分割
-
退職金の額が150万円以上
退職金の総額 = 退職金額×(1000分の26+厚生労働大臣の定める率)
中退共のメリット
- 事業主側のメリット
-
- 掛金は全額損金算入できる
- 国からの助成がある
- 従業員側のメリット
-
- 提携割引サービス(中退共と提携しているホテル、レジャー施設等を、加入企業の特典として割引料金で利用できる)
- 退職金は中退共から直接従業員に支払われる
中退共のデメリット
- 事業主や役員などの経営者は加入できない
- 24カ月未満での退職は掛金総額を下回る
加入後(掛金支払開始後)12カ月未満の退職では、退職金は全額支給されない
12カ月以上24カ月未満の退職では、退職金は掛金総額を下回る - 運用利回りは高くない
基本退職金の予定運用利回りは1.0%
付加退職金の利回り(厚生労働大臣が定める利率)は令和6年度で0.0010% - 掛金の減額のハードルが高い
掛金月額を減額する場合は、従業員の同意が必要
従業員の同意が得られないときは、現在の掛金月額を継続することが著しく困難である旨の厚生労働大臣の認定書が必要となる - 懲戒解雇による退職金減額のハードルが高い
中退共から支払われる退職金額は、退職の理由が事業主都合か自己都合かで変わることはない
※懲戒解雇等の場合は、厚生労働大臣の認定を受けたうえで、退職金を減額することができる - 厚生労働大臣の認定を受け減額された退職金は、事業主には返されない
(共済制度における長期加入者の退職金支払財源に振り向けられる) - 中退共解除のハードルが高い
事業主都合の中退共の解除は、従業員の同意が得られたとき、または掛金納付の継続が困難であると厚生労働大臣が認めたときに限りできることになっている - 解除が行われる場合、12カ月以上の掛金を納付されている従業員には、解約手当金が支給される
※解約手当金・・・掛金助成を受けた従業員の解約手当金は、退職金の額から掛金助成金相当額、または解約手当金額の3割のどちらか少ない額が減額された額(従業員の一時所得)
中退共の考察
中退共は、長い歴史があり安心感があります。
条件さえ整えばすぐに加入することができ、初期費用、掛金以外のランニングコストがかからないのもメリットです。
しかし、加入後(掛金支払開始後)12カ月未満では退職金が支給されないことから、従業員が短期で辞めてしまう会社では制度がそぐわない可能性があります。
減額や解除を行う場合には厚生労働大臣の認定が必要なので、安定的に掛金を払うことのできない事業所(業績に波のある事業所)は慎重に加入を検討する必要があります。
従業員自身の給料から掛金が拠出されていないので、退職するまでは中退共加入の恩恵を感じにくいかもしれません。
昨今では、企業年金(DB・DC)やiDeCoプラスなどの退職金制度も浸透してきており、事業所の状況に合わせて使い分けや併用をしていくのがいいのかもしれません。