夫婦共働き世帯は、連帯債務で住宅ローンを組むと住宅ローン控除を夫妻で受けることができるため、大きな節税メリットを得られます。しかし相談業務の中で、住宅ローン控除額を勘違いしている方が意外と多く、他にも影響することが多々あります。住宅ローンの連帯債務について勘違いポイントと影響をざっくり解説します。
住宅ローン控除とは
正式には「住宅借入金等特別控除」という名前で、「住宅ローン控除」や「住宅ローン減税」とも言われています。
住宅ローンを利用して住宅購入またはリフォームした際に、要件を満たせば所得税(該当すれば住民税も)が減税される制度です。
住宅ローンの年末残高の0.7%が所得税から差し引かれます。(平成25年~令和3年居住分は1%)
所得税から引ききれなかった分は住民税からも差し引くことが可能です(上限あり)
住宅ローン控除を受けることのできる期間や適用される条件は年によって違いがありますので、国税庁HP等でご確認ください。
No.1212 一般住宅の新築等をした場合(住宅借入金等特別控除)
No.1211-1 住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)
連帯債務とは
住宅ローンには大きく「連帯債務・連帯保証・ペアローン」の3種類があり、連帯債務はその一つです。
- 連帯債務
主債務者・連帯債務者の連名で契約し、同じように債務を負います。
住宅は共有名義となり、それぞれの持ち分に合わせて住宅ローン控除やすまい給付金をそれぞれで受けることができます。 - 連帯保証
連帯保証人は、債務者の債務を保証します。
債務者の返済が滞った後に、連帯保証人が代わりに返済をします。
住宅ローン控除やすまい給付金は債務者のみ受けることができます。 - ペアローン
夫婦それぞれが別々の住宅ローン契約を結びます。
住宅は共有名義となり、それぞれの持ち分に合わせて住宅ローン控除やすまい給付金をそれぞれで受けることができます。
連帯債務とペアローンは、夫婦ともに債務者となり、それぞれが「住宅ローン控除」や「すまい給付金」を受けることができるところは共通しています。
大きな違いの一つとして、連帯債務は収入合算して審査を行いますが、ペアローンは夫婦それぞれ審査を行います。
ペアローンは、奥さんが単独でも審査が通るような状況であることが必要です。
連帯債務は、一人だけでは収入要件が足りない場合に利用することが多く、ペアローンよりハードルが低いものとなっています。そのような背景から、連帯債務で住宅ローンを組む方が多くいらっしゃいます。
連帯債務 | 連帯保証 | ペアローン | |
---|---|---|---|
債務者 | ローン契約者:主債務者 もう一人は連帯債務者 | ローン契約者:主債務者 もう一人は連帯保証人 | ともにローン契約者 |
借入契約 | 収入合算して1契約 | 収入合算して1契約 | 持分に応じて各自契約 →2契約 |
事務手数料 | 1契約分 | 1契約分 | 2契約分 |
住宅ローン控除 すまい給付金 | ともに対象 | 債務者のみ | ともに対象 |
団体信用生命保険 | 主債務者のみ。 金融機関によっては連帯債務者も。 | 債務者のみ | それぞれ加入 |
持分割合と連帯債務割合
持分割合とは、購入した住宅(土地・家)が共有となっている場合の持分の比率のことです。
いっぽう債務割合は、住宅購入するにあたって借り入れた住宅ローンの返済額の負担比率のことです。
基本的には、持分割合=連帯債務割合になります。
国税庁HPの例を使って解説します。
No.4411 共働きの夫婦が住宅を買ったとき
住宅購入額(持分は夫婦1/2ずつ) 3,000万円
夫 持分50% 1,500万円
妻 持分50% 1,500万円
借入金(夫婦の連帯債務) 3,000万円
この場合、借入金3,000万円の連帯債務割合は、持分割合同様に夫50%、妻50%とするのが基本です。
持分割合と連載債務割合が異なる場合
前述の借入金3,000万円を、持分と異なる債務割合にした場合の影響を解説します。
持分割合 | 連帯債務の 内部契約割合 | |
---|---|---|
夫 | 50% | 60% |
妻 | 50% | 40% |
贈与への影響
債務額は、夫1,800万円(60%)、妻1,200万円(40%)となり、夫から妻へ300万円の贈与とみなされます。
実際に贈与税の対象となるのは、借入金返済の年ごとです。
ある年の返済額:夫60%(60万円)、妻40%(40万円)
夫から妻へ10万円の贈与があったものとされ、その年の贈与額となります。
国税庁HP 夫名義のマンションのローンを共働き夫婦で返済した場合
Q
夫婦でマンションを購入することにしました。マンションの名義は夫ですが、ローンは夫婦の連帯債務です。ローンの返済は共働きの収入から行いますが、贈与税の問題がありますか。
A
ローン返済の年ごとに妻から夫に贈与があったものとされます。その年のローン返済額に妻の所得が夫婦の所得の合計に占める割合を乗じて計算した金額がその年の贈与額になります。
(相法8、昭34直資58)
国税庁HP 夫名義のマンションのローンを共働き夫婦で返済した場合
国税庁HP 共有の家屋を連帯債務により取得した場合の借入金の額の計算
住宅ローン控除への影響
住宅ローン控除額は下記の計算式で求められます
住宅ローン控除額 = 住宅ローン年末残高 × 負担割合 × 控除率
負担割合・・連帯債務割合と持分割合のいずれか少ない方(=持分割合を上限とする)
控除率・・令和4年は0.7%(過去10年くらい1%でした)
控除額は年によって上限額があります。
住宅ローン年末残高3,000万円、控除額1%の場合の住宅ローン控除額
夫 3,000万円×50%×1% 15万円
妻 3,000万円×40%×1% 12万円
連帯債務割合 = 持分割合 にしていれば、夫妻合わせて30万円の控除が受けられるはずでした。
連帯債務の注意点
連帯債務は、夫妻で住宅ローン控除を受けることができますが、持分に注意しないとメリットを最大限活用できません。
- 持分割合=連帯債務割合にしないと住宅ローン控除のメリットを最大化できない。
- 持分割合≠連帯債務割合 を是正するために、登記をやり直すことができるが、登記費用などのコストや贈与税がかかる可能性もある。
- 妻が専業主婦になり、妻の納税額がない年は、妻の住宅ローン控除は使えずに捨ててしまうことになる。
- 離婚する際に借入残高があると、大問題になる可能性も・・
FP相談の現場から
連帯債務割合と持分割合が異なっている世帯を数多くお見受けします。
住宅購入の際に、ハウスメーカーや工務店からこのような説明があればいいのですが、ないことの方が多いようです。
さらには、住宅ローンを貸し出す金融機関からもこのような説明がされないことは多いです。
連帯債務割合と持分割合が異なっていても、ハウスメーカーや金融機関は業務としては困らないですし、業者さんも知らない方が多いのが現状です。
特に土地から住宅購入する場合は、早急に持分割合を決めないといけないので、住宅ローン控除のことまで考えないで決めてしまうケースは多いです。
ちょっと疑問に思って、登記する直前に大慌てでFP相談にお見えになる方は結構いらっしゃいます。
まずはFPにご相談いただき、住宅ローン控除のシミュレーションをしたのちに決める方が、失敗もなく納得感も得られます。